今日は何の日?

今日は何の日?

友達からハーブティーをもらった。

いろんな種類のハーブティーが少しずつ入っている。

子供のいない私たち夫婦二人にはちょうどいい。

ハーブティー。

そういえば、今日は・・・・・・ おまけに金曜日だし。

今夜の夕食に飲もう。ゆっくりと。

・・・・・・夫は気付いてくれるかしら?

今日は何の日?

「今、駅に着いたから」

夫からの電話があったのは、23時を少し回ったころだった。

今日は早いなと思う。
連日深夜残業なので、日付が変わらないうちに帰宅するのは珍しい。

さて。今夜のハーブティーの準備をしよう。

これはアイス仕立てが美味しいらしい。猫舌の夫にはぴったり。

・・・・・・そういえば、あの日に初めてわかったのだっけ。

今日は何の日?

「これ何?」

グラスに入れたルビー色のハーブティーを一口飲んで 夫は言った。

「ハイビスカスのハーブティー。

ワインかと思った。色が似てるし・・・・・・」

「これはホットよりアイスが美味しいんだって」

「ふうん」

「ハーブティーっていろんな種類があるよね」

「うん」

気のなさそうな返事。やっぱり覚えてないのかな? それなら・・・・・・

「今日は何の日?」 ストレートに聞いてみることにした。

「・・・・・・結婚記念日」 夫の声は自信がなさそうだ。当然よね。

「それは5ヶ月前」

「・・・・・・キミの誕生日」

「2ヶ月先」

今日は何の日?

「・・・・・・オレの誕生日・・・・・・なわけはないな。ヒントをくれ」

「ハーブティー」

「・・・・・・あの店にはホットしかなかったな」

 なんだ、覚えてるじゃない。

「今日は何の日かわかったよね」

「うん」

「じゃあ、あの時の言葉も言えるよね?」

「なんで、今更・・・・・・」

「いいじゃない」

結婚して10年と5ヶ月。
夫の仕事が忙しくて、毎日帰宅も遅いし、休日は疲れてぐったり。

旅行も外食もほとんどしたことがない。

結婚前もしょっちゅうデートしたことはなかったから、こんなものとは覚悟はしていたし、10年もたつとすっかりこの状況に慣れてしまった。

夫と私は価値観が似ていたし、夫も私を束縛するようなことはなかったので、大きな喧嘩をすることもなく、特に不満はない。

けれど、やっぱり、寂しいというか、このままでいいのかなと思ってしまう。

なんというか、このまま何の変化もなく、日常に埋もれていって、老夫婦になってしまうのかなと思うと、なんとなく虚しい。 たまには、結婚前のように、ときめいたりもしてみたい。

今日は何の日?

「キミ、あの店の場所を覚えてる?」

突然、夫が言った。場所って・・・・・・

「オレは覚えてるよ」

「地下街をぐるぐるとあちこち歩き回って入ったお店だったから、覚えられるわけないでしょ。あれから、一度も行ってないし」

「キミは方向音痴だからね」

「言われなくてもわかってるわよ。それを言うなら、あなた、あの日に飲んだハーブティーの名前は覚えてる?」

「・・・・・・ジ・・・・・・カモカモ?」

「あなた、ホントにカタカナ弱いわね」

「オレは舌が短いから人より噛みやすいだけだ」

「はいはい、何度も聞いたわ。だから何年たっても変わらないのね」

「キミの方向音痴も変わらない。あの日、入った店でもトイレに行って、なかなか帰ってこなかった」

「失礼ね、店の中で迷わないわよ」

「見えてたんだよ、キミが何度か立ち往生してるのが」

しまった。余計なことまで思い出してしまった。

そんな思い出なんか、どうでもいいのに。私が聞きたいのは・・・・・・

「・・・・・・明日、あの店へ行こうか?」

「あの時はホットしかなかったけど、今はアイスがあるかもしれない。これと同じのも」

「ハイビスカス」

「ハ・・・・・・カスス?」

「・・・・・・あの時の言葉を言って」

「まだ覚えてたのか・・・・・・」

「当然」

夫はグラスに残っていたハーブティーを飲み干した。

ああ、あの時もそうだった。最初の一口で舌を火傷して、それからかなりたって冷めきったハーブティーを飲み干してから・・・・・・

「オレと結婚してください」

 本当にあの時と同じだった。いつもの彼にしては少し早口で、緊張しているのがまるわかりだった。

「はい」

 ああ、私もあの時と同じ。自分でも驚くほど早く、そんな短い返事がすっと出てきた。

今日はプロポーズ記念日。

今年はいい記念日になった。

・・・・・・今まで祝ったことはなかったんだけどね。

明日が楽しみ。久しぶりのデート。

夫は今度は何を飲むのだろう? あの時と同じ、ジャーマンカモミールかしら?

いえ、もっと短い名前の・・・・・・リンデンとか。

でも、明日もまたいつものようにグーグー寝てるのかしら?

それなら、また私がハーブティーを入れてあげよう。今度は何にしようかしら? 


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