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自分へのご褒美
「なんじゃこりゃ…!」
タンスの奥を整理していると、昔好きでよくはいていたジーンズが出てきた。
そのジーンズをはいてみたら、お腹周りのお肉が思いっきりはみだしている。
う〜ん。これは、はみだすなんてもんじゃない。無理やり締めたベルトの上にたぷたぷした贅肉がだらんと垂れ下がって、二重あごみたいになっているじゃないか。
ああ、いつの間にこんなことに…。
これでも独身の頃は「スタイルがいいね」と言われていた私。
今の夫であるタカシとつきあい始めてからはもっときれいになりたくて、お風呂上りに足をマッサージしたり食事カロリーにも気をつけたり。
だからデートの時、「きれいだね」と褒められると本当に嬉しかったなあ。
それが結婚生活3年目の私ときたら、緊張感ゼロ。
家の中ではほとんどジャージ姿でゴロゴロダラダラするわ、ヘアサロンにも滅多に行かないわ、お化粧も以前ほど本気でやらないし。
そういえば、最近あまり鏡を見ていない…。
そんな私に、タカシは何も言わない。
でも、「最近太った?」「もうちょっとオシャレすれば?」
なんて言わない代わりに「きれいだね」という言葉も口にしなくなったのを私は知ってる。
そうだよね。このお腹じゃあ、言いたくても言えないよね。
タカシは私のことなんか、もう女として何とも思っていないのかしら。
そんなのイヤ!何とかしなければ!
しかしそう思いつつも、何もしないでいるうちにあっという間に3ヶ月が過ぎてしまった。
そしてハッと気がつくと、体重が2キロアップ…えええっ?!
その体重計の数字を見た瞬間、「今度こそ何とかしないと大変なことになるぞ」という心の声が聞こえた。
私は早速プールに通い始めた。
そして毎晩ストレッチを欠かさず、夜8時以降は何も口にしないようにして、食事も温野菜とフルーツ中心 に切り替えた。これはまさに理想的なダイエット。
でも、これが結構つらくて…
もともと私は食いしん坊でお酒大好き人間で、
仕事のストレスを美味しい食べ物とお酒で発散していたのに、
楽しみが減っちゃって残念…本当に続けられるかなあ。
そう思っていたある日、タカシがこんなことを言ってくれた。
「そうやってきれいになろうとがんばっている君は、ステキだよ」
ステキ?私がステキ?タカシからそんなことを言われたのは、本当に何年ぶりだろう…
ちょっとドキドキした私。
きれいになりたいのは、大好きなあなたのため。
そして、あなたに愛されたい自分のため。それをわかってくれているの?
私もまたあの頃に戻れるかしら?そして、2人の間にまたあの頃のトキメキを取り戻せるかしら?
それから数ヵ月間途中で何度も挫折しそうになり、実際に何度か挫折したりもしたけれど、
「絶対にきれいになるんだ!」とダイエットをあきらめなかった。
そして気が付くと、ジーンズをはいても肉がどこからもはみ出なくなり、肌もしっとりつややか。
オシャレも楽しめるようになって、毎日笑顔で過ごせるようになっていた。
でも私が本当に取り戻したものは、きれいな外見だけじゃなかったと思う。
それは「タカシに愛されている」という安らぎと幸福感。私の中に眠っていたタカシへの想い。
「明日の夜、久しぶりに2人で食事にでも行こうか」
タカシにそう言われて夜景の見えるホテルのレストランで食事をした時、タカシがこっそり私に言った。
「本当は、君はあのままでもいいと思っていたんだ。
でもこうして君が昔みたいにきれいになったのを見ると、なんというか、惚れ直したな。
君はやっぱり僕の自慢の奥さんだよ」
あなたの自慢の奥さんでいられて、本当に幸せ。
そう言うのが恥ずかしくて、私は黙ってニッコリしただけだったけど、その時 「今のこの瞬間を、今のこの気持ちをいつまでも忘れたくない」と心から思っていた。
あなたが私だけを見ている。私はあなただけを見ている。
それを思い出せたことが何よりも嬉しい。
だからそれを忘れないために、何か形に残るものを買おう。
身に付けられるアクセサリーがいいな。いつもよりちょっと贅沢なもの。
これから私は何度もそれを手に取り、「これはあの時の自分へのご褒美だった」と思い出す。
そしてきっと、そのたびに幸せな気持ちになる。











