私が私でいられるために

「僕と結婚してください」

突然あなたからそう言われた。

つきあい始めて3ヶ月後。

いつものように行きつけのカフェでコーヒーを飲みながら、二人で他愛のない話をしている時だった。

「え?今なんて言ったの?」

それがあまりにもさらりとした言葉だったので、一瞬何を言われたのかわからなかった。

結婚?今、「結婚」って言った?

私が私でいられるために

「僕と結婚してほしいんだよ」

さっきまで冗談を言ってゲラゲラ笑っていたあなたが、私の目をじっと見つめている。

店内のざわめきがすうっと遠ざかり、急に2人きりになったような気がした。

胸がドクンと鳴った。何か言わなきゃいけないと思い、平静を装ってコーヒーカップをテーブルの上に置いたけれど、手が少し震えていた。

私が私でいられるために

「もしかして、それってプロポーズ?」

ああ、そうだよ。

彼はそう言って、ニッコリした。いつもの優しい笑顔。

私のすべてを受け入れてくれる笑顔。

私のワガママでケンカをしてしまった時も、仕事でつらいことがあって落ち込んでいた時も、私は この笑顔に許され、なぐさめられてきた。

彼と過ごした3ヶ月間は、ずっと穏やかな時間が流れていた。

恋愛ドラマのような「死ぬほど好き」という激しい感情を抱いたことがなくても、 一緒にいるとやわらかい空気に包まれているように穏やかで、 別れ際には「また会いたい」と思う。

私にはそれだけで十分だった。

そんなことを思いながら、私は彼をもう一度見た。

目が合うと、彼はまたニッコリした。ゆっくり考えてくれたらいいんだよ。

そのゆったりとした笑顔は、私にそう語りかけているようだった。

ああ、そうだ。こうやって彼に笑顔を向けられると、私はとても素直になれる。

本当の自分に戻ることができる。

いつもは世間体やら社会的な役割やら、いろんなことにとらわれて生きている私。意地やプライドがあって、ついつい無理をしている私。そして時々自分が嫌になる・・・。

でも、彼のそばにいる時だけは、何でもない「ただの自分」でいられる。 自然に呼吸することができる。それがとても幸せ。 彼と一緒にいる時の自分が好きだし、そんな私にしてくれる彼のことも大好き。

私が私でいられるために

私が私でいられるためには、彼が必要だ。

だから彼は、私にとってかけがえのない人。

そんな人とめぐりあえた喜びが、私の心にふいに湧いてきた。

その彼とこれから一緒に歩いていくことに、迷いなんてない。

「いいよ」

恥ずかしそうにうなづいた私を見て、彼は嬉しそうに私の手を握った。

私もその手をそっと握り返した。

いつまでもこの手を離さないで。

そう言いかけた時、彼がこうささやいた。

「エンゲージリングは一緒に選ぼう。 2人が離れている時にも、そのリングが僕の代わりに君の手を 握りしめていられるように」

プロポーズの言葉なんて何でもいい。

私が私でいられるための魔法のリング。

それは、2人が一緒にいられる大切なしるし。その輝きがいつも私を守ってくれるだろう。

しばらくして彼と一緒に店を出た。

私に差し出した彼の大きな手が、いつもよりも頼もしく、あたたかく見えた。

プロポーズしてくれてありがとう。これからもこうやって2人で歩いていこうね。

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